小説の杜

旧 kazami-k 小説の杜から越して来ました

狂二 5

お盆休み中の大阪御堂筋は、ガランとしていた。秋には小金色に染まる銀杏並木も、夏、真っ盛りの今では青々と若葉が茂り、ちょっとした森林気分を味わえる。が、少し葉影を逸れると容赦ない都会の太陽が照りつける。道路はガラスキでも、当然のように暑い。
休みなど関係なく 本町にある田嶋総業本社ビルに、アメ車4駆ハマーを乗りつけた板垣こと高城はパワーウインドウを下げながら、顔馴染みの守衛に「よおッ」の挨拶だけで 地下ガレージへのシャッターを開けさせた。

「あ、高城常務、お盆もお仕事ですか。ご苦労様です」
「少し野暮用があってな。ま、家に居たって、ヒマやしのう」笑いながら、パワーウインドウを上げる。実際 今年62になる高城には夫婦2人だけで、子供は居なかった。 その女房も数年前から市民ホールで生け花の講師を勤め、忙しい日々を送っている。 ま、お互いにそれぞれの案件を抱え、充実ていうか、我が道を好き勝手に歩んでいると言えよう。
地下ガレージから、オフィスへ上るエレベーターに乗り込もうとし、フト思い出し守衛室へ引き返す。
「キミ、政治新聞の記者が来る事になっている。案内の方 よろしく頼む」
「はッ 秘書室へ直接の案内でいいですか」
「うむ。ナニワ政治新報の吉沢君だ」
「かしこまりました」
敬礼でもしてそうな声を背に、エレベーターに向かう。

秘書室は7階の御堂筋に面し、銀杏並木を見下ろすことが出来た。田嶋総業は元々大阪港に面した港区に本社ビルがあったのだが、田嶋社長の永年の夢である 【御堂筋沿いに本社ビル】を一昨年実現したばかりである。また、実業家の常なのか、今度は“名誉”も手に入れたいのか、府会議員に立候補しようと言い出した。「

はは。。。いつまでも楽しませてくれるぜ、あの親子・・・、当分退屈せずに済むのぅ」空調の換気を全開にし、しばらくしてから冷房のスイッチを押す。その時、胸ポケットの携帯が振動する。ディスプレイは“情報屋”と表示していた。
「はい、高城だ」
「・・・・・・・・」
「まだつかめんのか、えらい、時間掛かってるやないか、もう三週間になるぞ」「・・・・・・・・」
「・・・・そう、かなり長身らしい、で空手か、少林寺だろう。日本拳法ならこっちのルートで調べ上げた」
「・・・・・・・・」
「うむ。頼む」
終話のボタンを押しながら ため息をついた。
「竜さんをたった一撃で倒す程の男だ。直ぐにでも身元を掴めるかと思ったが、後悔しはじめていた。また、一部の新聞に書きたてられたが、他は直ぐに押さえ、警察への被害届は出さずにした。おそらく最初の原因は 竜さんだろう。。。数人のグループにやられたとなっているが、高城は竜一のダメージを見るなり たった一撃、それも相手は“単独”なのを見抜いていた。『最後の手段を使うべきか・・・・そやつの顔、早く拝みたいものだ・・』      

つづく