小説の杜

旧 kazami-k 小説の杜から越して来ました

狂二 7

何者かの尾行に気付いた狂二は、背中と聴覚に全意識を集中させた。
足音を数え、人数を確認する。・・・・・・・・・・・・・・
今の所 3人。。。
『けッ 中途半端なグループめ』心で毒づく。次に 足音のリズムで相手の“能力”を推し量る。
武道または格闘技の心得者かどうか、いつしか、たいがいは判るようになった。

どうやら3人の内 一人はまあまあな使い手らしいリズムを刻んでいる。
『注意すべきは真ん中の野郎だ』

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『いちぃッ にいっ いちぃッ にぃッ。。。。』声が沈んでるぞッ!
館長の声が容赦なく瀬戸内海の海岸に響く。毎年正月の稽古初めの季節が来るたび、取材のテレビカメラの前で突き、蹴りを披露させられた寒稽古を想い出す。テレビニュースを観た級友達から “やんやの喝采”を浴び、一躍スターになったコトもある。
8歳の時 母親にせがみ、近所に出来た空手道場に入ったのだ。テレビで観た格闘技番組の英雄が 空手出身だと当時読んだ子供雑誌のインタビュウ記事がキッカケ。
 その後 勉強よりも身体を動かすのが三度のメシより好きだった 狂二はメキメキ頭角を現し、小学5年で初段に昇格。が、父親が経営していた小さな会社が事業に失敗し、道場通いどころではなく一家はバラバラに。とりあえず逃げるように母親の実家 大阪にやってきたのは中学1年になったばかりの春だった。。瀬戸内海の潮の香りに少しでも近づきたい・・・と大阪港に近いアパートに転がり込んだが、瀬戸内海とは全然べつモノな色と香りの、どす黒く濁った海だった。
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足音のリズムで 3人連れの内 最初に狙うは 真ん中の奴と決めた。
周囲にも神経を集中させる。
今の所 邪魔者は居ない。
チャンスだ!ゆっくりかがみこみ スニーカーの紐を結びなおしながら後ろの気配を探る。
案の定、足音が止まる。
素早く振り向きざま相手を確認する。
“!”
 今までに逢った事の無いタイプの連中だった。
右端の小柄な男が ナイフを突き出してくる。
暗闇でもキラリ光る刃先は鋭く手入れしてあった。
「おっと・・・」
余裕で払いのけ、右脇に廻り込むや回し蹴りを相手の首にお見舞い。
いつもなら簡単に仕留める筈が 少しかすっただけだった。
それでも『バチッ』
にぶい音を残し、その男は尻餅をついた。
逃がすか。相手の胸板に渾身のパンチを叩き込む。

!気配がし、振り向くと
左にいた男が “突き”を繰り出したあと、足を直角に振り上げてきた。

“テコンドウ、かかと落とし”

だが、瞬時に立ち上がった187の狂二の頭を狙うには 少しばかり寸法が足りない。
すいッ と避け 逆にその男の軸足を蹴り上げる。
またも簡単に尻餅をつく相手。
「※ ■ ○×瞬 機 餓 ?!」
日本語では無い言葉を口々に叫び始める奴ら。。
最初に狙うと決めていた真ん中の男が 最後に残っていた。
それまで仲間と狂二との闘いを腕組みしながら 眺めていたが、
ふいッ と片手を挙げ「すまん」とでも言うようなポーズをとる。
倒れている仲間の背中に「グワッ」とカツを入れ、息をいとも簡単に吹き返させるリーダー格の男。

「ち。終りかよ」
一瞬、神経が弛緩した時だった。
振り向きざま、男の強烈な回し蹴りが 飛んで来た。

ビュンッ!!と夏の空気を 切り裂くような音だった。   

  つづく