小説の杜

旧 kazami-k 小説の杜から越して来ました

狂二 8

ビュンッ・・・それは初めて体験する強烈な廻し蹴りだった。
咄嗟にガードした両の腕がしばらくは『ジンジン』唸りを上げ痺れた。
思わずよろめきかかった。が、下腹にグッと力を入れかろうじてこらえた。
『・・・・ッ!』
振り向きざまに強烈な廻し蹴りをよこしたその男は狂二のガードに、
(まるで信じられない!)とでも言うような表情を向けた。
その瞬間を捉え、今度は狂二の方から “前蹴り”をお見舞いする。が、簡単に相手の左足でガードされ、“ガシッ”と鈍い音が響く。。。

知らない街で 知らない者同士が しばらく睨みあう・・・ジーンズの右ポケットの膨らみに気がつき、すッと手を入れる。『あは あの時のガム 入ったままやん』そっと握り締める。で、握った手で 相手のみぞおちを狙う。少しスピードを増したのか 相手のガードの速さより僅かに勝った。
『うッ。。。』思わずうずくまる相手・・
その頭めがけ “かかと落とし”のお返し。が、くるりと前転でかわし、狂二の足を掴みかける。『おッ』と後ろへ飛びのく狂二。

耳を澄ますと 表通りにあるであろう料理屋から カラオケの伴奏部分がかすかに流れていた。
『何やってんだ俺たち・・しかし。。。』
その時 頭の裏側からなにやら得体の知れない“喜び”の感情がこみ上げて来るのを感じていた。

『久々にドキドキ出来るやん・・・』

その時だった。

「繝医Ξ繝シ繝峨そ繝ウ繧ソ繝シ縺!!」
またもや 日本語じゃない言葉で 両脇の男たちが叫び始めた。
腕時計を示しながらの 必死の形相だった。
それはまるで「リーダー 時間がッ 時間がないっすよ」とでも言ってる風にも聞こえた。

時間が無いのは 狂二も同じだった。そろそろ引き上げないと “築港冷凍倉庫”の夜勤時間にまに合わない。
呼ばれたリーダー格も、「ちッ 仕方ないか・・・」とでも言う表情を狂二に向け、去って行った。

『で 奴ら何者だったんだ・・・』
テコンドーの技を頭の中で反芻しながら 狂二も引き上げた。


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その時、電柱の影で、息を潜めながら狂二らを観察していた小柄な男が居た。

やおら携帯を取り出すその男。
「あ、高城常務さん・・・ハイ 今からその男の後を付けてみます。ハイかなりの長身で、腕もかなりの奴でして・・・」

           つづく