小説の杜

旧 kazami-k 小説の杜から越して来ました

狂二 10

9月に入った大阪。しかし今年の残暑は例年以上に厳しいものがあった。
例年では 昼間は猛暑に照りつけられた市内でも朝晩は涼しい風が吹く。が今年の場合、最低気温が25度を下がらない熱帯夜が続いていた。
「暑くなるのが遅れた分、秋の訪れも やはり遅いのだろう。。。が、連日の熱帯夜 もうウンザリやのう」田嶋総業 本社ビル社長室で 田嶋社長が高城常務に愚痴をこぼしていた。
「はい、社長 今年は 夏の訪れが遅かった分、過ぎ去るのも遅いのかも。。ですね。」毎朝9時、社長出社と同時に 社長室に呼ばれる高城常務がいつもの報告会を始めていた。
「今朝は 特に何も無いかね?」汗を拭き拭き、巨体を革張りソファーに沈めながら田嶋社長が聞く。
「はい、それが・・・今朝、妙なFAXが・・・」言いながら高城はFAX紙を差し出した。差出人は 内閣府国家公安委員長名で、用紙全体の背後には“極秘扱い”の文字が薄く読み取れた。宛名は 全国港湾荷役企業各位 となっておりその概略は次の様な 内容だった。 

・・・・・で、香港経由で 発送企業主の国名が 欧州、等にもかかわらず梱包側面にハングル文字等の文字が確認される場合、品名、数量(中味)、総梱包数と、入庫伝票の照らし合わせは慎重に行なう事。また不審な点がある場合 直ちに直轄の警察に届ける事とし・・・・
 と言った文面だった。港湾荷役企業と、密輸事件とは ある意味密接な関係にあり、ここ数年 公安委員長名で届く書類が増える傾向にはあった。が、何となく やはり異質と言えば異質な通達書類だった。
「韓国あるいは北朝鮮がらみの不審貨物への注意勧告・・という事だろうとおもうのですが」
「さっそく担当部長、それに関連企業にも 手配してくれたまえ」
もう下がって良い・・・と 言いかけ
「関連企業と言えば 築港で例の男を見失ったそうやが、元刑事と言うあの情報屋は、使えるのか」田嶋は笑いながらも鋭い眼光を高城に向けた。
「は、あのあと、他のごたごた騒ぎで離れていましたが、直ぐにでも再開してみます。」
事実、惨敗した与党の国政選挙戦の後始末に、田嶋が所属する与党の関西支部も振り回され、田嶋に代わり実務を担当する高城常務が忙殺されていたのだった。

「築港冷凍は今でも24時間フル稼動しとるのか?」
「ハイ、その筈ですが」
「丁度良い、通達の件もあるし、今夜あたり覗いてみようやないか。築港の潮風が懐かしいのう」
「はい、かしこまりました。ところで竜さんは白浜の別荘で?」
「ああ、そろそろ大学が始まるから呼び戻そうと思ってる頃やが、ま、本人は至って元気そうや」             つづく