小説の杜

旧 kazami-k 小説の杜から越して来ました

狂二 13

田嶋総業 板垣こと高城常務はちらッと 横の田嶋社長に目をやった。
ハイヤーは大阪ミナミの繁華街を抜け出し、四ツ橋筋を北上。四ツ橋筋 西本町から左折体制になり、中央大通りに差し掛かろうとしていた。あと10分前後で築港に着く。が、先ほどまで民自党幹部との酒席をこなしてきた田嶋社長は酩酊状況を越え、既に熟睡体制に入りかけて居た。

「キミ、先に社長の自宅が先だ。その先で阪神高速に入ってくれたまえ」運転手に告げると 高城はスーツの袖をたくし上げ、タグホイヤー リンククロノの文字盤を確認した。
----23時10分---
 ロレックスが高級腕時計の代名詞の様に言われているが、高城の場合、その“らしさ”が気に喰わなかった。マイカーと腕時計は気兼ねなく使い倒すべきモノ・・・とのコダワリがある。
「はぁ? 宝塚のあと 築港だとかなり遠回りになりますが。」田嶋総業関連会社 “堀江タクシー”の運転手がルームミラー越しに高城を振り返り応えた。
 社長専属になってかれこれ10年のベテラン運転手だ。前職は銀行員じゃなかったのか?と思ってしまう程のキ真面目さを 顔に書いた実直な男だ。
「かまわん、その代わりワシも少し寝る。着いたら起こしてくれ」 

築港冷凍倉庫は24時間操業。。。ま、誰ぞ居るやろ。。。そういうや高城も目を閉じ、眠りに入った。                


                 ※

----最初こそ荒れたものの 圧倒的に力を持つ大将のお蔭で、むしろ大阪一といわれる程の平和を保てたそうです----
多美恵は自分のマンションに帰ったあと、先ほど聞いた 三浦の言葉を心の中で 繰り返していた。
なんと ひょんな事から 今付き合っている彼は 元番長で札付きの “ワル”だったと言うのだ・・・が、今思えば思い当たるフシが無いわけではなかった。当時は 不思議やね。。と店長とか、同僚達と話し合っていた ある“コト”が蘇って来た。多美恵が今のコンビニに勤め始めの頃、駐車スペースは 髪を金髪に染めた不良とか、暴走族のたまり場になっていた。南港にも近く 二輪だけでなく 南港の急カーブ目当ての四輪ローリング族の通り道でもあり、深夜から早朝にかけ 常にエンジン音が鳴り響き渡る。。。という環境下にそのコンビニが在った。
 店内には防犯カメラも完備・・という事もあり 直接迷惑を掛けられ・・・と言うのではなかったが、その時間帯 一般客の足はどうしても遠のいてしまい、やはり迷惑以外の何物でもない存在だったのである。
ところが ある日を境に ピタっと彼らの姿を見かけなくなった。正確に言えば 彼らも普通の客として現れ、買い物を済ませば スゴスゴ帰って行く。。。いつの間にかそういう風に変身してくれて居たのだった。
多美恵は先ほどの言葉を思い出し、小さく『アッ!』と叫んだ。
狂二が 店に現れたのは、まさしくその頃だったのだ。

              つづく