小説の杜

旧 kazami-k 小説の杜から越して来ました

狂二 17

11月の声を聞き 古庄多美恵は15日の狂二の誕生日プレゼントを買うべく 携帯ショップに足を運んだ。
「へー 11月15日が誕生日なの?龍馬の命日やん」
「そんなに、あれなんかな オカンもその日に生んだ事を、ことの他喜んでいた・・・」誕生日を聞き出した時の会話を思い出す。もうあれから3ヶ月が過ぎようとしていた。夕方近く起き出し、多美恵のマンションへ夕飯を食べに来る。たまには狂二も新聞で習った 料理をすることもあるが見ていられなくて やはり多美恵の手で完成させることが殆んどになってしまう。 それで目の前に猛烈な食べっぷりを見ながらの食事は 多美恵にとっても幸福感をもたらした。たわいのない世間話をし、テレビを観、「じゃ、行って来るわ」「気をつけてね」恋人同士と言うより 親子関係。。。みたいな そんな付き合いの日々だ。 やっと18 まだ18なのか・・・少し寂しい気分になる時もある。が 全然気にする風でもない それどころか全幅の信頼を多美恵に寄せる狂二の瞳を思うと 再び幸福感に包まれた・・・・あの瞳・・・・最初初めて見た時 鋭利な刃物のような光を感じた。が、今や 穏やかな光がきらめいていた。いつまで続くか分からないが 長く続いて欲しい・・・
 そんな事を考えてた。              

                 ※

「よーしッ ラスト10」
白浜 冷凍倉庫 坂本社長の声が 外の冷え込みをよそに熱気で充満した道場内に響く。
突き・蹴り 交互に千回繰り出した竜一の全身から湯気が立ち上る。よくぞここまで・・・さすが 高城のアニキが幼少の頃から 鍛えてきた素地はあったにしてもここまで頑張り抜き成長した竜一を見、坂本はそろそろ大阪へ返しても良い頃かな・・と思った。
 狂二にやられたアゴの為、100キロ近くあったウエイトも80まで減り、それが幸いし、突き、蹴りなど 空手など拳法に要求される身体のキレに大いに役立っていた。
わずか2ヶ月ほどで基本はマスターし 坂本や、一番弟子との組み手にも 互角でなんとかこなすまでになっていた。
「竜一のボン、何が幸いするか分からんのぉ、これが人生と言うモンや」
「ボン・・・確かに ただのボンボンやったと言われても仕方ない。。」
竜一はハニカミながらも笑顔を見せた。
「よう頑張ったのぅ、今週末大阪へ帰るか。ワシのクルーザーで送るわ、久々に田嶋のオヤジさんや、高城の兄貴に会いたいしのぉ」
「えーー ホンマか」
竜一は
 白浜の海鳴りを聞きながら 昼間は白浜冷蔵冷凍倉庫の手伝いをし、夜は坂本社長が自費で開いたと言う拳法道場に通った日々をこの先おそらく一生忘れないだろう。。。と思った。

  11月の海は、暗く、深く そして大きく何事も飲み込むがごとく静かにうねっていた。          

                 つづく