小説の杜

旧 kazami-k 小説の杜から越して来ました

狂二 18

大阪湾の波間に 木屑やら発泡スチロールのかけらが揺らめき、静かに漂っていた。 確か、夜中だと言うのに 雲間から覗いた太陽の光が沖を照らしている。 その沖の遥か彼方を泳ぐ 狂二の背中が見えた。どこまで泳ぐと言うの・・・もう冬なのに・・・・・・・・・・・・・・
はッ! として目が覚めた。
ふーーとため息をつきながら多美恵は枕元の目覚ましを確認した。
午前1時半----今頃 フォークリフトを操り荷物と格闘している頃か。。。それを想像し、少しは安心したが どうも最近同じような夢を立て続けに見、心のどこかに不安を感じていた。
狂二の身に何かがあるのだろうか。。。
「うわー!メッチャ嬉しい、欲しかったんだ 携帯」
昨夜、子供のように目を輝かせ 誕生日プレゼントを凄く気に入ってくれ、何度も何度も 「サンキューベラマッチ、あんがとう」とおどけ、がっしりした腕で抱きしめてくれた。
なのに、昔 同じような夢を見たことを思い出していた。
中学教師時代 受け持ちの生徒を“いじめ問題”で自殺寸前までに追いやってしまい、忘れようのない心の“かせ”を持っていた。危うく一命を取り止めたものの、本人、そして追い込んだ方の生徒。お互いに、ついてしまった深い心の傷はなかなか消えないだろう。おそらく多美恵にも。 
それがきっかけで教師生活とはサヨナラした。
故郷北陸を離れ、学生時代に親しんだ ここ大阪にやってきたのが真相だったのだ。 
もうあの頃の悲劇は なにがなんでも見たくない。
 布団をたくし上げ 再び眠ろうと努めた。

                ※

和歌山白浜を夜の8時過ぎに出航した大型クルーザーは午前零時には 早や関西空港の連絡橋をくぐり抜けた。
「どや、竜さん。船が一番やろ」坂本社長が 操りながら吼えた。
「ああ、最高ッすね」
「田嶋の社長、何で白浜に冷蔵冷凍倉庫を建てたか分かるかぁ?」
「いや 知らん、聞いてない」
「はは。半分以上 遊びの為やね、白浜を拠点として、釣りのスポットは無数にあるからのぅ。」
竜一にとって初めて聞く話だった。もっとも家庭で仕事の話など一切しなかった。板垣こと高城常務を通じて会社の事など、ちょこちょこ聞く程度でもあったが、高城もどちらかと言えば クルマとか、武術の話が殆んどではあった。
それでのぅ、竜さん 坂本がつぶやきぎみに喋り出した。
「この船 半分以上は田嶋のオヤジさんが出資してくれたんやが、どうも本社仕事が忙し過ぎで 白浜とすっかりご無沙汰や」
悪戯っ子が、ハニカムような表情で続けた「それで 竜さんを届けた帰りに オヤジさんを白浜へ連れ帰ったろうかのぉ。わはは・・・」

そうこう話して居る内に 大阪港の明かりが見えて来た。
時間は午前1時を過ぎたところだった。


      つづく