小説の杜

旧 kazami-k 小説の杜から越して来ました

狂二 最終章 中編

「どうする?」狂二が竜一に聞く。
「とりあえず信じるしかないやろ、今の状況じゃ少しでも味方が欲しい。ま、嘘なら嘘でこいつ等人質に利用出来るしな」
「よし、決まり」大きくうなづくと同時に「おい、テコンドー野郎 銃はとりあえず持っておけ、今から作業棟へオバちゃんらを救出に行く」


「サンキュウ,ソウサヘのキョウリョク オネガイ」
「その前に 確認や。。。お前らの配置と役割分担は?」竜一が尋ねた。
思ったとおり、5~6人ずつに別れ、ココ以外に作業棟、事務所棟、表門、裏門とそれぞれ見張っているという事だった。築港冷凍見取り図



 先に倒したテロ達をロープで縛り上げ、竜一と三人組の内一人が見張る事にした。
「じゃあ、行こうかテコンドー」
「オレ キムドンゴン・・・」
「はは、キンドンね。この件が片付いたら、先日の決着あとでゆっくり付けたる」
「アア、イイネ」
 事務所棟の奴らに見られぬ様 裏側から作業棟へ。裏窓からこっそり中の様子を覗く。
「!」
意外にもパート従業員らはリラックスしていた。
何人かはミカンの皮を剥きほおばっている。数人のテロリストらは一応銃を構え、行ったり来たりしていたものの笑みさえこぼれている。顔を良く見るとあどけなさが残る少年の様だった。アジアでもなければ欧米でもない顔つきだった。「おいキンドン、奴らは未だ子供のようだが。。。でアラブ?」「ココのチーム、ジョセイのウケモチ、ダカラ カレら でジュウブン。カレらショウネンも アルイミ ギセイシャ。。」シカシ・・・言葉を考えながら、続けた「ハンザイはハンザイ・・キズつけずに トラえる。。」
「良し、分かった」

                  ※

大阪府警を出た高城常務の運転する“ハマー”は中央大通りを西進、阿波座を越えたあたりから急に渋滞に巻き込まれた。

「くそー、こんな夜中に渋滞か。。」
「この先工事中なのかも知れませんね」
通常なら10分もあれば築港に着くところを40分程かかり、ようやく橋を超えれば直ぐ。。まで来た。が 黄色の回転灯を屋根でクルクル点灯させたトラックが数台停車し、バリケードを連ね、通行止めにしていた。
バリケード前ではガードマンらしき男が数人監視していた。
近づいてみると 関西ガスの制服を着ていた。トラックは紛れもなく関西ガスの文字が入っている。
「変だな さっきココ通る時、工事の気配さえなかった」助手席の坂本社長が言った。
「おい 今頃工事か、聞いてないど」ハマーのウインドウガラスを下げながら、高城常務が制服に聞く。
「ハイ スンマヘン。 キュウにケッテイイタシマシタノデ。。。ウエからのメイレイでおます」
「!」
おいッ お前何処のクニや それに変やないか 日本では警備会社の社員が交通整理するぞ」高城常務の一喝で相手は少しひるむ。顔は少し青ざめていた。「突破や 行くぞぉ。シートベルトは良いか?」声を挙げるなり ハマーをバックさせる。で 思い切りクラクションを鳴らせながら、アクセルを踏み込んだ。。。             
                 ※

作業棟での救出は比較的スムーズに終わった。キムドンゴンと、その仲間を先頭に突入させ、英語で少年兵らを説得した様子だった。後ろに控えた狂二を見、あっさり観念したようだった。次々と持っていた銃をキムドンゴンに預け、両手を頭の後ろで組みだした。その様子を後ろで見ていたパートのおばちゃん連中が

「うわーまた男前、入ってきよったでぇ 見てみぃ 韓国の俳優ちゃうか」
その声にどっ と湧く。
「コージ君 遅いやないの 何してたん?」

「はは・・・」ここの救出は 最後で良かったかな・・・少し後悔した。           

                ※

高城は黄色と黒のバリケードを次々となぎ倒しながら、ハマーを走らせた。
ガリッ バシャッ ガリガリ・・・容赦なく鉄の残骸がハマーの底やら、横腹を襲う。

「ウエイツ!ストップ!ストップ!」
周りから口々に叫びながら 制服が飛び出して来た。で、なんと機関銃を撃ち始めた。

なんじゃあ、これッ、中岡君 府警へ電話だ 否 自衛隊へ連絡だ!今直ぐ」「は、はいっ」中岡は、車の握りクリップにしがみつきながら もう片方の震える手で携帯を取り出した。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ハマーは機関銃を振り切り、角を曲がれば築港冷凍・・まで来た。
「! 作業棟からの機械音がしないです」中岡社長が不安げにつぶやく。
クルマを極力静かに走らせる。そろ~ と 曲がった時だった。銃を片手にリュックを担いだ迷彩戦闘服姿の兵士達が門を監視していた。
「くそッ 用意はいいか 坂本君 いくぞッ!」
「はい兄貴。いや高城常務、昔を思い出して ヒト暴れしますっか?」

              最終章 後編につづく