小説の杜

旧 kazami-k 小説の杜から越して来ました

狂二 最終章 後編

作業棟で軟禁状態にあったパート従業員たちのとりあえずの解放に成功したが、無事に帰宅させるまでは 勿論安心は出来ない。とりあえず裏門から帰宅させるべく、裏門で見張る連中をなんとかせねばならない。他の連中も 即、駆けつけてもおかしくない状況には変わらない。。。

「じゃあ、キンドン 裏門から片付ける。。少年兵も何人か連れて行く」
「イヤ・・ホカのレンチュウにミラレタら アヤシマれる。カレらは ココ、タイキ・・」ま、もっともな意見だった。ここまでは とりあえず順調に事が進んだ。が、何やら得体の知れない不安が狂二の脳裏をよぎる。考えすぎかも知れない。それは理屈ではなく、漠然とした第六感から来ているようだ。
 最後の下駄を履くまで、油断は禁物だな・・
「わかった、その代わりロープで縛り付けておく 良いな」キンドンゴンのもう一人の仲間を見張りに付けておく事にした。たしか以前逢った時、いきなりナイフを差し向けた男だった。が とりあえず信用するしか無い・・
「リョーカイ」少年兵達を縛り上げ、狂二らは再び外に出た。 

裏門からは死角になるところで一旦立ち止まる。「俺 此処で待ち伏せしておく。奴らを呼び寄せられないか?」
「オーケぃ、キンキュウジタイ ハッセイとか、サケンでヨビヨセる。。。」 キムドンゴンが何やら叫びながら裏門へ駆け寄る。案の定、パラパラとテロリスト達が駆け寄って来た。
 「はーいっ お待た・・・」叫びながら 狂二がジャンプ 同時に先頭の兵士の首根っこを蹴り上げる。 グシャッ。。鈍い音を残し、倒れこむ。
 「The what went wrong?(どうした?)」倒れこんだ奴の後方から口々に怒号が響く。
「ドーモ シナイゼ!」奴らの背後から キンドンゴンが蹴りを繰り出す。慌てて、銃の安全ロックを解除し、身構える兵士も居たが、狂二のスピードが許さない。
蹴り、パンチ、一回転しての さらなる回し蹴り。。ものの見事に決まる。 が、騒ぎに感づいた事務所棟を見張っていたテロチームも駆け寄って来た。
パッパパパーン連続した銃声が構内の空気を振るわせる。 
ビシッ狂二の肩先をかすめる・・「あッ 痛っ!」思わず顔をしかめ 左肩を押える狂二。。。                 

                  ※

表門の不審者を前に 高城常務と坂本社長は両手を挙げながらクルマから降りた。
 中岡社長は車内に残り、府警 さらに民自党の幹事長を通じ自衛隊への連絡を試みた。表門でたむろしていた兵士達は 高城常務らに気付き銃口を向けながら近づいて来た。
「坂本君、今の所6人のようだな で、あの連中一見日本人のようだが、お隣の国かも。。」視線は兵士らを見つめながら 小声でささやく。
「はい、ひとり辺り3人ずつ・・・てところで。。」
「不満か?」「いえいえ 滅相もない。朝飯前の腹すかしに丁度手ごろで。。」「近づけるだけ、出来るだけ近づく。いいな」 
静かに頷く坂本社長。

「オイ トマレ!」高城常務らを ぐるりと兵士達が取り囲んだ。
 その瞬間クルッと身体を前方回転させた坂本の足が対面の男の脳天を直撃。
そいつが倒れ込むか否かの時、両隣の兵士を 高城常務、渾身の左右のひじ鉄がヒット!崩れ落ちる二人。
慌てて銃を構える残り3人の兵士達。。。が 安全ロックを解除させるには 少々遅すぎたようだ。前方回転からすっくと立ち上がった坂本社長の余裕の蹴りが3人を捕らえた。。。
 その時 事務所棟付近から銃声が響く・・・パッパッ、パパパーン。。。
「坂本君 こいつ等の始末は後だ! 急ごう」とりあえず銃を回収し構内へ走った。     
                ※

 建物の影に回りこむ狂二とキンドンゴン。「オイ ダイジョーブか?」
「映画で良くあるセリフやが、カスリ傷や・・・」
銃声を聞きつけ 竜一も駆け寄って来た。
「狂二 その肩。。。」「はは、だから言ってるやん カスリ傷・・それより、役者が揃ったことやし、作戦たてようぜ」
「おいキム。。ナンとか 奴らのレベルは?」
「マ、フツーやね 」
「はは、フツーね・・・じゃあ、さっきは3分だったから今度は2分で片付けてやんぜ」
「無理するな」
敵の足音が 近づく・・目を閉じ 全神経と細胞を集中させまわりの空気を読む
人数を数える・・・
ようやく狂二のテリトリーに近づく。。
“!”
「今ッ」先頭の敵に飛びかかり 突きと蹴りを見舞う。一瞬で 簡単に倒れ込む相手。後続連中に銃を構えさせる余裕も与えず 蹴りの連続・・・
「おい、俺にも分け前 残しとけ」怒鳴りながら 竜一も続く・・・・
後ろの相手が銃を構え、狂二に狙いを定めた時だった。

シャッーーー!
怒鳴り声と共に 坂本社長の飛び蹴りが相手の後頭部を完璧なまでに捕らえていた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・その頃 ようやく遠くでパトカーのサイレンの音が響き渡って来た。空では 八尾空港を飛び立った自衛隊ヘリの爆音も近づく。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「いやー今夜の夜勤代 高めに請求してもええかな・・な 若ボン」
呼ばれた竜一は 高城常務に肩を抱かれ なにやらしきりに頭をかいていた。
パートのオバちゃん連中が遠巻きに 狂二らに拍手を送っていた。
「はは・・・結構楽しめたぜ。。」

その時 狂二はテコンドー野郎が居ないのに気付いた!
「はッ!」
冷蔵冷凍倉庫棟に走る姿を捉える。。。。
必死で追いかける狂二・・・・ 倉庫の奥に 追い詰める
「おい 何する気や!」
 リュックから何かを取り出す テコンドー野郎
「モウ オシマイ スベテハ シッパイね。ダカラ ショウコのインメツ・・・」

「まさか お前 自爆かあッ」
「オイ ヘンな ニホンジン モット、ムカシに アイタカッタ、サヨナラ・・・」

「ばッ バカヤロウ!」死なすかあ


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
現場検証を始めた大阪府警に、中岡社長や高城常務らも立会い、構内奥の倉庫棟を見上げた時だった。
倉庫の窓を突き破り 何かが海に飛び込み同時に なにやら叫ぶ声を聞いた気がした。

 大音響と共に 大阪港の濁った海面が盛り上がり大きな水しぶきが上ったのは そのわずか数分後だった。。。。。。。

                     完