小説の杜

旧 kazami-k 小説の杜から越して来ました

続・狂二 波濤編33

JR姫路駅 駅前 貸しコインロッカー前に着いた ヒロシは さりげなく周囲を見渡す。 平日で通勤時間帯から外れた午前10時半という 中途半端な時間が幸いした。 強くなりだした雨脚に、タマの人々もヒロシの背中を早足で通り過ぎる。

組長から預かった キーの番号を探す。358・・・

端から端まで結局、一往復目に ようやく見つける。

見つかりにくい筈だ。一番下の段にあった。

さりげなさを装い、腰を落とす。 キーを差しこみ右にひねる。 カチャ

キーの頭を引っ張り、扉を開ける。

一瞬 ぎょッとなる。

蓮の柄が刺繍され、少し豪華な白布で覆われた “骨壷箱” が目に飛び込んだ。

ハハ・・・

「黒スーツで行って来いや」 出かける前 竹川組長の言葉を思い出す。

そういう事か、万が一 職務質問にあっても 遺骨箱の 中まで 調べられる事は あるまい・・

先ほどからパトカーのサイレンがしきりに唸っている。 だが 駅前を無視するかの如く 遠ざかり、

南の方へ 駆け抜ける。

[まさかフェリーターミナルじゃないだろうな]

雨に濡れない様 ボストンバッグに“それ”を素早く仕舞い込み、 姫路港行きのバスが出る バスターミナルへと急いだ。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ フェリーターミナルの途中、総合病院の駐車場に 赤色の回転灯を クルクル廻したままのセダンやパトカーを窓越しに覗き込む。

『ちッ、交通事故か何かだろう 驚かすなよな』 小声で毒づく。

家島行きのフェリーターミナルでは

[あいにくの天候により 11時30分発マツ島行きが、本日の最終 となります。ご乗船の方は お急ぎ下さい] と、何度も繰り返している。

「おーヤバー ギリギリ間に合ったすね」 学生らしき7、8人の集団が 素っ頓狂な声で騒いでいた。

「静かにせんかい」 ヒロシがにらむ。

集団の一人が 近づきかける。

慌てて リーダーらしき若者が腕を捕らえ 「やめとけ、暴れるのはこんなトコと、ちゃうやろ」 頭を軽く小突きながら諭す。

「それは ワイのセリフやがな」 ポケットから シワだらけの札を引っ張り出し 乗船券窓口へと 向かう。

 

若者集団らと 数時間後 荒れ狂う場所にて、 おもわぬ再会を果たすとは この時点に於いて、知る由も無かった。