小説の杜

旧 kazami-k 小説の杜から越して来ました

続・狂二 波濤編37

姫路署捜査一課 加納課長は 姫路市総合病院 緊急処置室で
再び 担当医の島野に入室を制止させられた。

「患者の意識が いま一つ安定しない様です もうしばらく外でお待ち頂けませんか?」

ベッドの上で、田中巡査は その声を聞きながら一安心しながらも、
若干の後ろめたい気持ちも感じてきた。

しかし 頭の中が混乱し、直ぐにどうのこうのする気力など湧いて来なかった。

実際 爆風を背中で受けており、幸いにも致命傷にはならなかった様だが、
一瞬 気を失う程の衝撃を受けたのは事実だ。
頭の芯に 鈍い重みを感じた。




そうこう考える内、再び 本当に眠りについてしまった。

しかたなく待合室に戻った加納課長は、携帯のフリップを開け着信履歴を確認した。

見知らないナンバーが 3回 その後 同じ捜査一課 柴本からも
2回の履歴がディスプレイされていた。

とりあえず 柴本のナンバーをプッシュする。

「あ、課長 お待ちしてました・・・」
野太い声が飛び込む。
「何事かあったのか」
「あ、すみません 昨夜の・・・」

昨夜の 携帯ショップ店内での騒動事件の被害者が 署に出向いていると云う事だった。

もう一つ要領を得ないが その店長の話を要約すると

昨夜の事件の裏には 外人グループによる
テロ行為の疑いがあると言う事だった。
さらに 家島周辺に 不穏な影が近づきつつある 証拠となる犯人グループの無線も傍受した

との話だった。

家島の名前に 加納は思わず 叫んだ。

「家島だとッ」

「あ、はい 携帯ショップの彼が 主張しているのですが」

「急いで 署に帰る 待っておいてもらう様に」

携帯を閉じると 病院の処置室前で待機する 他の課員に
「一旦署まで帰る 田中巡査の意識が戻ったら ワシの携帯に連絡くれるか」
 急ぎ足で病院を出た。

              ※
空をツンザク 拳銃の発射らしき音を聞いた 情報屋の佐々木は 消防団の二人と校内に駆け寄った。

学校特有のザワメキは一切なく、
不気味なまで 静まり切っていた。

「音が鳴ったのは 職員室のあたりじゃなかろべ」
団員の一人が小声でささやく。
「遠いのか」
佐々木も小声で聞き返す

「そこの音楽室のふたつ向こうでさぁ」
裏玄関の横に音楽室が見えていた。

コツン・・・

佐々木の革靴が校内の廊下の床に響く

「もと刑事さん 靴は脱いで行くべ」

「う、うむ。。。」

三人は靴を脱ぎ そろりと近づいた。

職員室は都合よく 廊下側の窓は透明ガラスになっており
首を伸ばすと部屋の中が見渡せた。

「あッ」
覗き込んだ先頭の団員が 慌てて首をすっこめる。

「ここに生徒 先生ら全員集めさせられている」
「全員て?こんな場所にか」
「全員入れても わずか3、40人も居るかどうかなんすよ」

腰を落とし 三人とも音を立てないよう後ずさりした。
教室側の視線から隠れる所まで戻ると
佐々木が「皆無事か 参人組は?」

「一瞬やから わからん ただ 今の所 なんとか無事みたいや、
下向いて しょげているけど」

「くそー この携帯 つながればのぅ」
団員の一人がポケットの携帯を取り出した。

「元 刑事さん どうすれば良かっぺ」
「しばらく 相手の出方を見守るしかない」
佐々木は ふと 
「中の様子を見るには 廊下側しか場所はないのか」

「あ 中庭からも見える筈や」
「桜の木陰で 丁度良いかもな」
もう一人が同調する。

  一寸見てくる。
 
 佐々木がそろりと場所を離れた。


             つづく