小説の杜

旧 kazami-k 小説の杜から越して来ました

狂二 Ⅲ 断崖編 その12

外は真っ暗闇のままだ。腕時計を確認すると零時少し前だった。

かなりの時間が過ぎたような気がしたが、 ほんの数時間しか寝ていなかったのだ。 酔い醒めの薄ぼんやりした、ふわふわな気持ちは、バイクのエンジン音で吹っ飛びかけていた。

しかし、立ち上がってみると意識と行動にズレを感じた。

これも夢の続きなのだろうか。

廊下に出てみると都会にはない冷え込みが襲う。 さらに云えばほんの24時間前まで高熱にうなされていたのだ。 あわてて部屋に戻り、防寒ジャンバーを探した。


夜中に複数のバイク音、明らかな不審侵入者と考えるべきだろう。 うすぼんやりした意識が徐々に覚醒しつつあった。 奴らの狙いは倉庫内の荷物に違いない。 築港時代にも幾度か経験した。とるに足らないチンピラ集団だった。 警察に通報するまでもなく、叩きのめした事がある。。

しかし、今回の場合、なぜトラックで乗り付けずバイクなのか。

侵入者の意図を計りかねた時、沖合からボートらしきエンジン音が聞こえて来た。 「ボートに積み込んで逃げようて魂胆か」

案の定、桟橋の方からざわめく声も聞こえた。

走り出そうとして、足元のサンダルに気づく。 作業時用にと支給されてた安全靴にはきかえる。 つま先に鉛が入っており若干重いが、浩二にとっては履き慣れた重さだ。

※ 2010:03.30:00:15 電波時計の時刻表示が点滅していた。 「早くしろ」 リーダー役3号がいらだった。 「夜明けまでたっぷりじゃねえか」 「29号、だからお前は甘いのだ、従業員がいつ目覚めるかも知れない。それに2時を過ぎると、この国では新聞配達が町を走る。先日も危うく遭遇しただろ」 そう云われ 黙々と積み降ろし作業に没頭するしかなかった。

「?!」 建物の陰から様子を伺うと、予想に反して、ボートから積み降ろしの真っ最中だった。 何やってんだこいつら。 こんな夜中に、預け入れの客があるなどと、申し送りなどされていない・・・

相手の人数を確認した。 ボートの男を入れると6人。 飛び道具さえ持っていなければ、何とかなる。 自信があった。 バイクで乗り付けたであろう連中は、全員黒1色のレーシングスーツらしきモノを着込んでいた。 そこそこの上背はあるが、浩二ほどではな い。 筋肉の盛り上がりは見られるが、拳銃などの膨らみは今のところ見られない。 積み荷を降ろす側、ボートの男はフード付きジャケットで顔を隠していた。 拳銃などの所在は計りかねた。万一そいつが持っていようが、 一人ぐらいなら何とかなる。

なんと云っても築港や家島でのテロらと格闘した経験があった。 「何とかなる」 危うい自信を呼び覚ました。

拳を握り締めた。意を決し

「お前ら、何やってんだ」 気合もろとも 恫喝する。

浩二の声に一同振り向く。

一瞬まさかと言う表情で、レーシングスーツの連中が顔を見合わせた。

のこのこと、たった独りで出てきた事に対する驚きなのか、それとも 無人の倉庫と想定していたのか。

積み下ろし作業を、監督するかのように見ていただけの男が、一人の男に

「仕方ない やれ」 合図するかの如く、首を振った。 (あいつがリーダーか)

「シャーッ」 奇声と同時に男がいきなり飛び上がってきた。 着地前に回し蹴りで浩二の首を狙う。

!!!

(なんという跳躍力)

間一髪のところで急所は避けた。 が、咄嗟にガードした左上腕部が火傷したかのように熱い。

「くっ」

中段前蹴りで相手の鳩尾(みぞおち)を狙う。 威力はないが、瞬時を争う際には有効とされる。 が、あいての左手でなんなく、払いのけられてしまう。

仕方なく後方回転、 跳ね上げた浩二の左足が相手の顎を狙う。 。。。 筈だった。 それも簡単に避けられてしまう。

いきなりの後方回転で頭がグルンと鈍い音をたてる。 クラクラする。さらに 着地を狙い済ましたかの如く、浩二のふくらはぎを相手の下段回し蹴りが襲う。

左のふくらはぎが焼きゴテでも押さえつけられたが如く、激痛が走る。

たまらず崩れ落ちそうになった。

たった、二発の打撃で初めて経験する恐怖を感じてしまった。。 (くそう、・・・)

だが、ここまで持ちこたえた事を まるで予想外と云う反応を相手側が示したようだった。

「ナンバートゥエンティナイン、Kill fast(速く殺れ)」

首の傾きで合図しただけの男の罵声が飛ぶ

「このやろう、大男の割に身の軽い奴で・・」

トゥエンティナインと呼ばれた男が額の汗をぬぐう。

その瞬間、ほんのゼロコンマ数秒を見逃さなかった。 左足回し蹴り。と見せかけ、素早く右回し蹴りを首根っこに叩き込む。。 が、これも相手のガードで避けられてしまう。

(ハアハア・・・何なのだ) たった一人相手に・・・息があがってきた。

ここ数日、ろくに寝ていなかった。 何といっても、数時間前のアルコール。 それさえ抜けてくれたら・・・

そう思った瞬間だった。

バチっ 鈍い衝撃音と共に、左すねが火を噴く。 瞬間の息継ぎさえ見逃してはくれず、 相手の下段回し蹴りが再び炸裂したのだ。

こらえきれず、倒れ込む。

く くそっ・・・

倒れ込んだそのあと、考えられる事はただ一つ。

予想通り、左足を軸に、右足が回転。地を払う。 浩二の頭めがけ 蹴り込んできたのだ。

くっ・・・

全身 全霊、気合いを両手に込めた。

蹴り込んでくるその足を待った。

両の手で頭上で 拝み取り。 同時に右ヒザを力点に跳ね起きる。 (負けるか)

どさっ。 派手な音が鳴った。 尻餅をつく相手。

激痛の左足を軸点に、渾身の力を右足に込め、 相手の左すねを連続二回蹴りあげた。 さらに連続 倒れたその男の鳩尾に全体重を乗せた右肘打ちを叩き込む。

「うがぁっ・・・」

言葉にならない男の悲鳴が闇夜を裂いた。

・・・・ようやく・・・

だが、浩二とて、右足一本でかろうじて立ちあがっているに過ぎない。

リーダーらしき男が血相を変えた。 周囲の男らに合図する。

「仕方ない 次はワシが仇を取っちゃる」 とでも云いたげに、それまで様子見していただけの男らが 浩二に間合いを詰めた。

何者なんだこいつら・・・

暗くて人相は判別できなかったが、 どうみても国籍は日本では無いようだった。

またしても・・・

白浜で 不審外国人と向き合うコトになろうとは・・・

天を仰いだ。

無数の星が降り注ぐかのようにきらめいているのに、 そこでようやく気が付いた。

つづく

※ 当記事は フィクションですので 万が一、実在するいかなる個人、団体とも 一切の関係はございません

(-_-;)