小説の杜

旧 kazami-k 小説の杜から越して来ました

狂二 Ⅲ 断崖編 その14

「よしっ、よくぞやった」 浩二の倒れ込みを見届けると、リーダーが 歩み寄ってきた。

しかし、リーダーには無視するがの如く、 三人の会話が盛り上がった。

「二人の加勢がなければ、危うい処だった」

「必殺のムエタイキック。ここにありってとこだな」

「サーティン、フォーティーン、さすがの双子。息もぴったりで背後によくぞ回り込んだ」

「はは、そうでもないさ」

「よし、無駄口はそこまでだ、早いとこ積み降ろしだ」

「ナンバースリー。ボスよ、あんたはいつも命令だけ。 気楽なものじゃないか。少し休憩させてくれよ。 相手はひとりとは云え、半端じゃない野郎だったんだぜ。 一歩間違えばこちらが危うい状況だったんだぜ」 浩二をムエタイキックでしとめた6号がリーダーに歩み寄る。

その時・・・

ボートの男が 「ナンバースリー!」 叫び、拳銃を投げよこした。

「This is Elegance!」 振り向きざま受け取るや、ガシャッ。 手動でセーフティーを解除。 銃口が6号に向けられた。

立ちすくむ6号。

「ご希望だった SIGザウアーP230です」 ボートの男が静かに告げる。

「これは素晴らしい。片手にすっぽり入る全長168mmにもかかわらず、9mmポリス弾薬をぶちこんだ奴」 よほど嬉しかったのか、リーダーにしては珍しく満面の笑顔を見せた。 が、いつもの冷酷な表情に戻り、三人に向き直ると

「今一度あえて言う。今回のミッションのリーダーである私の命令は絶対だ。 私の背後には夜明けの黒い星、さらに二百人委員会が目を光らせていることを決して忘れないように」

「ちっ・・・分かったよ、すべてはナンバースリー様の言う通り、だからその拳銃、仕舞ってくれ。さっ 早い内バイクに積み替えようぜ、この荷物たち」

「いい心がけだ。だが、その前にトエンティナインと、その男の始末だ」

!?

三人の顔色が変わった。 「今、なんて言った。野郎はともかく、トエンティーナインは我々の同志だろがっ。始末てどういう意味だ?」

「こういうことだ」 ボートの男に向かってブルーシートとロープを寄越すように言った。 「このシートで厳重に包み覆うってもらう。そして彼が貨物船への帰還途中海上に・・・」

「ば、ばかな・・・そんなのできるわけが。ダメージを受けたとは言え、まだ息してるじゃないか」 「ナンバーシックス。じゃあ聞くが武器弾薬に加え、29号を背負い、紀伊田辺まで走ってくれるのだな」 3号が冷たく言い放つ。

「何度も言う。我々は親睦や観光でこの国にやって来たのではない。 すべては4・4。 その日の決行と成功が最終目標だ。 その目的を果たすまで、不安要素の完全なる排除が必須だ。 不安要素すなわち、我々の痕跡はゼロにしなければならない。29号には気の毒だが戦力としての資格が喪失した今、 単なる妨害要素に過ぎない。 私の説明は以上だ」

「・・・・」

「・・・29号、すまねえ」 二人とも薄目は開いたまま気絶していたが、胸は静かに上下していた。 つまりまだ息をしているのだ。

「しかし、この男デカい野郎だぜ。見ろよこの筋肉。足を持ってくれ」 「ああ、せーの」

気絶したままの二人を広げたブルーシートまで運び込み、覆い始めた。

「途中ほどけることの無きよう、ロープは厳重に」 3号の声には無視して作業を続けた。

「ボートには私が運ぶ」作業が終わるや否や3号が言った。 二人を巻き付けたブルーシートに向かい、 一瞬気合いを入れたかと思うとヒョイっと肩に担ぎ上げ、軽々とボートに運び込んだ。 ボートは加重を与えられ、左右に大きく揺れた。 波が打ち寄せる。風もさらに強く吹き始めたようだ。

三人は顔を見合わせ、あきれかえった。 「くっ、奴は口だけでなく、馬鹿力もあるんだな」

「じゃあ、手分けして撤収だ。2時までには紀伊田辺に戻りたい。29号の分は私が背負う」

各人、背負ってきた空のギターケースに、 先ほどボートから降ろした機関銃、ロケットランチャー砲。等などの部品、手榴弾その他を手分けし、詰め込んだ。

引き上げの際、ミニスクーターの存在に気づく。

「29号が乗ってきたミニスクーター・・・」

「仕方あるまい放置だ。29号がチンピラ集団から強引に戴いたモノだ。 我々の足は付くまい。指紋の拭き取りは念のためしておけ」

「じゃあ、4・4の成功を」

ボートの男は4人と別れを済ますと白い航跡を立て、桟橋から離れていった。

見届けた4人のバイクもスロットル全開、排気音が響き、やがて 闇夜に消えていった・・

・・・・・・・・・・・・・・

桟橋から離れる事、おおよそ1海里。

ゴムボート後部 船外機のスロットルを緩め、 男は周囲を見渡した。 いつのまにか風は収まっていた。静かな波を確認した。 ビニールシートを縛り付けたロープに両手を滑り込ませ、 腹に力を入れ、腰を落とした。 「ふんッ」 気合いモロとも腰の位置まで引き上げ、 躊躇することなく投下した。 ボートが激しく揺れ、危うく転落しそうになったが、かろうじて踏ん張る。

ブルーシートは、勢い良く周囲に波しぶきを立て、 やがては黒い海へと沈んで行った。

胸の前で 男は十字を切り、両手を組み頭(こうべ)を垂らす。 しばし沈黙の後、やおら西の方に向かい 「すべては4・4の為・・・我らにご加護を」 小さく吐いた。

ブルーシートを見届けると、 船外エンジンのスロットバーを全開に捻り上げた。 波しぶきをたて貨物船へと遠ざかって行った。

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「途中、ほどける事の無きよう・・・」

リーダーの命令で厳重に縛られたブルーシート。 比較的浅瀬の海底に沈み終わるや、その反動で浮上を始めた。 厳重に縛られたおかげで、一滴の海水も染み込むコトもなく、 また ナンバーシックスの機転で ゆとりを持って包み込んであった。 空気が逃げることも無く、一種の浮き袋状態だったのが幸いした。

穏やかだった海面上に、風が吹きはじめた。

浮上したブルーシートは完全に浮き上がり、 海面をしばらく漂った。

さらに風が強くなり、波は大きくうねり、 そのシートは 陸地に向かうかのように、

進んだ・・・・

空には満天の星が 相変わらず煌めいていた。

春だというのに すこし冷たい夜空だったけど。

つづく

※ 当記事は フィクションですので 万が一、実在するいかなる個人、団体とも 一切の関係はございません

(-_-;)