小説の杜

旧 kazami-k 小説の杜から越して来ました

そして、池上線8

ブイ~ン。 西崎とも代からの、携帯のマナーモードが震えたのは 雪が谷大塚駅に到着と同時だった。 「ごめん、急用で遅れるの、とりあえず碧をそっち行かせたから」 「え」 森島碧・・・ 「じゃ、終わり次第すぐ駆けつけるから」 「あ、もしもし。。。」 ち。。。 彼女の悪いクセだ。一方的にしゃべり続け、一方的に切る。

だが、いまいち足取りの重い探偵事務所だったが、 森島碧に再び逢えると思うと、心が騒いだ。

 

3日前、大阪へ向かった三好とのメール・・・

(編集部では大騒ぎだったのです、数百年に一人の逸材て) (確かに。けど完璧すぎる。万一てことあるのでコピペとかの調査は?) (モチロン、発見ソフトふる稼働中) (念には念を。。あ、彼女の投稿歴とか?いや、すでに受賞とか) (投稿するのも初めてのようで、なにより小説を書いたの、今回が初めてのようなんです) (まさか。。。)

 

応募作品の下読みのことなど、緘口令が敷かれ、口には出せない。 最終結果が出るとなれば話は別だが。。。それには半年以上待たねばならない。 せっかく本人に逢えると言うのに、なにか訊ねる手立ては。。。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 清楚で白い百合の花。だが私はこの花が嫌いだ。。。

と始まる 衝撃的な駆け出し。ついつい作品に引き込まれ・・・ 久しぶりに良質な小説に出逢った気がした。 全般的には衝撃的な内容。だが読後感のなんと温かく、爽やかなことか。 プロでも滅多にお目にかかることが少なくなった。

※ 駅前からものの3分と歩かない、雑居ビルの7階。 エレベーターを降りるとすでに森島碧は待っていた。 白色のコットンシャツにブルージーンズ。 どこから見ても、絵に描いたような今どきの普通の現代っ子。 彼女のどこに、あれだけの話を書く才能が詰まっていると言うのだろう。

視線が合うと、ぺこりとお辞儀するや駆け寄ってきた。

 

「どうもすみません、先生の代わりに私など」 「いやいや急用、仕方ありませんよ。で、ここ?」

 

ん!? 馬渕探偵事務所。。。

「あはは、漢字じゃ固苦しいだろうて、最初マブチの予定だったんです。けど 印刷ミスでマプチに。。。じゃあどうせならプチにしちゃえと。 娘も今風でいいじゃん。そう言うものですから」 こちらの緊張を解きほぐすためかどうか、

軽い調子で名刺を差し出してきた。

 

ーーーー馬渕探偵事務所 所長 馬渕憲一

「あ、どうも佐伯勇次と申します」 「えぇ大体の事情は、このミドリからも伺ってます」 と、呼び捨てで森島碧を呼んだ。

 

「はあ!?」 「佐伯さん」 「あ、はい」 「いやあ、縁とは不思議なものですな。この子、先月までウチで預かってたんです」 「はあ!?」 森島を見ると気まずそうに下を向いた。 「2月ごろや、思います。駅前でティッシュ配りをやらせてたんです。」 「あ、このチラシ入りの?」 カバンから取り出してみせた。 「えぇ。それを西崎先生が受け取って。。。」 「なんとまあ・・・・」

 

 

つづく

 

今更ながら、言うまでもありませんが、当シリーズはフィクションです。 従いまして、地名、名前 等はすべて架空のものです。万が一 同姓同名同社の方が居られましても、なんら関わりは御座いません。