小説の杜

旧 kazami-k 小説の杜から越して来ました

そして、池上線14

「で、どうやったん?あっちの件」 「は?」 「ほら、思い出捜し。。。」 「あぁ、そっちね。。。。」

 

 

探偵事務所の所長らしからぬ、ひょうきんな風貌が浮かんだ。 「まずここに相手さんのお名前を書いていただけますか」 渡されたグリーンの用紙には名前とフリガナの欄しかなかった。 「え、たったこれだけで?」 「あいえ、まずはネットで調べるんです、最近じゃこれが結構モノ言います。 いきなりヒットする場合もなかりけりで。。。」 云いながら所長の馬渕はノートパソコンに名前を打ち込んだ。

 

「いきなり5名ほど出てきましたけど、生年月日とか覚えてますか?」 「いやそこまでは」 「じゃあお歳は?」

 

「私より・・・・・ひと回り上。。今年62か3な筈です」 云ったあと、妙な感慨にふけってしまった。還暦は過ぎたのか。。。

 

馬渕は、ノートブックの画面を見ながら 「そうですか、やはり違う方たちです。」と云った。

 

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「あはは、そんな簡単にわかる訳ないやん」 「けど、SNSとかで結構わかる場合も」 西崎は 「あ、確かにね。最近じゃ平気で個人情報さらけ出したりするからね」 「で。。。。。」 「ん?何よ」 「題材になるような物語りとは思えないんだけど、本当に僕ので良いの?」 ふと気になっていた事を訊いた。

 

「良いに決まってるやん」 西崎は何をいまさら。。。と言わんばかりの眼を向けた。 「到底、本に書くほどのネタとは。。」 「あー嘘」 「え?」 「だって、わざわざ探偵事務所に依頼してまで捜したい相手、 それなりの思い入れとかある筈なんしょ?」

 

ズバリ本質を突かれた気がした。

 

「え、まあ。。。」 「けど、貴女の方が本になるような経験を。。。」 むかし、西崎から聞かされたことを思い出した。

それなりの壮絶ドラマだ。

 

「あ、確かにね。。。けど。。。。」 しばらくの沈黙のあと 「正直に言うわね。。。男性目線に挑戦してみたいの」 「は?」 「私の本て、女性が主人公ばかり」 確かに言われてみるとそうだった。

 

「いちど挑戦して見たの、けどどうしても女性の眼になってしまう。」 「・・・・・・・・」 「この前ね、書きかけのを。。。。」 「えぇ」 「碧に、『これ先生の目線じゃないですか』て、あの子そう言う感覚が鋭い」

「で、この僕の・・・・」 「だからお願い」

西崎は私に向かって両手を合わせた。

 

「その人と、当時どんな気持ちでのお付き合いだったのかとか、

別れのきっかけや、その時の気持ちとか、もし。。。

もし再会できたとしたら、どう言う心の変化があるとか、

洗いざらい正直に報告を、お願いしたいの」

 

ヒット連発のベテラン女流作家、西崎。 本当の顔をあらためて知った気がした。

つづく

今更ながら、言うまでもありませんが、当シリーズはフィクションです。 従いまして、地名、名前 等はすべて架空のものです。万が一 同姓同名同社の方が居られましても、なんら関わりは御座いません。