「で、どうやったん?あっちの件」 「は?」 「ほら、思い出捜し。。。」 「あぁ、そっちね。。。。」
探偵事務所の所長らしからぬ、ひょうきんな風貌が浮かんだ。 「まずここに相手さんのお名前を書いていただけますか」 渡されたグリーンの用紙には名前とフリガナの欄しかなかった。 「え、たったこれだけで?」 「あいえ、まずはネットで調べるんです、最近じゃこれが結構モノ言います。 いきなりヒットする場合もなかりけりで。。。」 云いながら所長の馬渕はノートパソコンに名前を打ち込んだ。
「いきなり5名ほど出てきましたけど、生年月日とか覚えてますか?」 「いやそこまでは」 「じゃあお歳は?」
「私より・・・・・ひと回り上。。今年62か3な筈です」 云ったあと、妙な感慨にふけってしまった。還暦は過ぎたのか。。。
馬渕は、ノートブックの画面を見ながら 「そうですか、やはり違う方たちです。」と云った。
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「あはは、そんな簡単にわかる訳ないやん」 「けど、SNSとかで結構わかる場合も」 西崎は 「あ、確かにね。最近じゃ平気で個人情報さらけ出したりするからね」 「で。。。。。」 「ん?何よ」 「題材になるような物語りとは思えないんだけど、本当に僕ので良いの?」 ふと気になっていた事を訊いた。
「良いに決まってるやん」 西崎は何をいまさら。。。と言わんばかりの眼を向けた。 「到底、本に書くほどのネタとは。。」 「あー嘘」 「え?」 「だって、わざわざ探偵事務所に依頼してまで捜したい相手、 それなりの思い入れとかある筈なんしょ?」
!
ズバリ本質を突かれた気がした。
「え、まあ。。。」 「けど、貴女の方が本になるような経験を。。。」 むかし、西崎から聞かされたことを思い出した。
それなりの壮絶ドラマだ。
「あ、確かにね。。。けど。。。。」 しばらくの沈黙のあと 「正直に言うわね。。。男性目線に挑戦してみたいの」 「は?」 「私の本て、女性が主人公ばかり」 確かに言われてみるとそうだった。
「いちど挑戦して見たの、けどどうしても女性の眼になってしまう。」 「・・・・・・・・」 「この前ね、書きかけのを。。。。」 「えぇ」 「碧に、『これ先生の目線じゃないですか』て、あの子そう言う感覚が鋭い」
「で、この僕の・・・・」 「だからお願い」
西崎は私に向かって両手を合わせた。
「その人と、当時どんな気持ちでのお付き合いだったのかとか、
別れのきっかけや、その時の気持ちとか、もし。。。
もし再会できたとしたら、どう言う心の変化があるとか、
洗いざらい正直に報告を、お願いしたいの」
ヒット連発のベテラン女流作家、西崎。 本当の顔をあらためて知った気がした。
つづく
今更ながら、言うまでもありませんが、当シリーズはフィクションです。 従いまして、地名、名前 等はすべて架空のものです。万が一 同姓同名同社の方が居られましても、なんら関わりは御座いません。