「その人と、当時どんな気持ちでのお付き合いだったのかとか、 別れのきっかけや、その時の気持ちとか、もし。。。 もし再会できたとしたら、どう言う心の変化があるとか、 洗いざらい正直に報告を、お願いしたいの」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 西崎が去った後の部屋に静けさが戻ると同時に
「今夜何時ごろ戻れる?勇一の就職の件で話があるの」 出掛け、玄関先で交わした女房の言葉を思い出した。
「え?まだ、決まってなかったのか?」 「決まるもなにも、先方とまだ会えないみたい」 「まさか」 「印刷業界も大変みたいよ」
ひとり息子の勇一、私立大学を卒業したものの、就職は決まらずに居た。 文芸新春時代のコネで、なんとかなるだろうと安易に考えていたのが そもそもの間違いのもとだった。
出版不況、すなわち出版社だけでなく、関連するどの企業も深刻なのだ。
壁時計は午後6時を回ったところだった。
約束の帰宅時間にはまだ間がある。。。 サイドデスクの引き出しを開け、奥からすっかり黄ばんだハガキを取り出した。
差出人 高野しおり・・・・・ 探偵社事務所で、その名を書いた時、こみ上げるものがあった。 本当に再会など。。。。いや、消息さえわかればそれで充分。いまさら
どのツラさげて逢える。。。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 「到底、本に書くほどのネタとは。。」 「あー嘘」 「え?」 「だって、わざわざ探偵事務所に依頼してまで捜したい相手、 それなりの思い入れとかある筈なんしょ?」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
彼女と会ったのは、勇一と同じ歳。。。あいや、卒論制作の為、 図書館に通いつめ始めた時だったから1、2年若い頃になる。
「野口冨士男、風の系譜ですね」しばらくお待ちください。 学生が、バイトで受付でも立っているのかと思えた彼女、 れっきとした図書館の職員で、あとで分かった事だが
一回り年上、しかも人妻だったのだ。
つづく
今更ながら、言うまでもありませんが、当シリーズはフィクションです。 従いまして、地名、名前 等はすべて架空のものです。万が一 同姓同名同社の方が居られましても、なんら関わりは御座いません。