西崎とも代からの電話は、いつも唐突で、何かと騒動モノだ。
それもようやく慣れた頃に独立をし、彼女との縁もついに終わりだな。
ふと脳裏をかすった時に、今回の思いもよらぬ初恋さがしの仕事。
独立し二年目、ようやく出版社運営に慣れたとはいえ、
何かと小さいトラブル発生。印刷所に通い詰める日々が続き、
印刷所の社長と打ち合わせの最中だった。
「あのさあ、確認なんだけど」
「すまない、あとから掛け直すから」
「あ、ゴメン。けど5秒で終わるから」
ちらりと社長を振り返ると、工程表を眺めたまま肩を落としていた。
「じゃ、何?」
「すでにCDになってたんちゃう?」
「はぁ!?」
「ほら、こないだ届いたつづきのメール、池上線の。レコードて書いてたでしょ」
「あぁ、あれ。。。。」
社長を振り返ると、眼があった。
どうぞどうぞと、携帯のつづきと、言わんばかりに手を振ってくれた。
すんませんと、頭を下げ携帯を持ち変えた。
「いや、間違いなくレコードだったと」
「間違いない?」
「えぇ。」
そんなコトどうでも。。。と思いながらも、
いかにも彼女らしいコダワリだとあきらめた。
「それと、もうひとつ訊いてよい?」
「今、打ち合わせ中なので。。。」
社長は工程表と睨みっこしながら、少しイラついた表情を見せた。
「あのさぁ、ミドリに馬渕さんから電話あったみたいやけど、そっちも行ってない?」
「えっ。いやこっちには何も・・・」
「ふーん。なら良いの。じゃあ」
それだけ云うや、一方的に携帯が切れた。
5秒どころか、なんやかんや5分は経過していた。
「ちょっと、トイレ行って来ます」
少しイラついた表情で社長は席を外した。
すみませんと、頭を下げ携帯を見つめた。
馬渕探偵から電話。。。何らかの手がかりが見つかったのだろうか。
印刷所、会議室の壁のカレンダーを眺めた。
そう云えば、依頼してから、そろそろ2週間。
約束の中間報告の期限なんだろうな。
カレンダーを眺め、日付から視線をずらせた時だった。
思わず、あッと声を上げた。
彼女との一番の思い出場所。。。
まぎれもなく
代々木公園の風景がそこにあった。
今更ながら、言うまでもありませんが、当シリーズはフィクションです。 従いまして、地名、名前 等はすべて架空のものです。万が一 同姓同名同社の方が居られましても、なんら関わりは御座いません。