小説の杜

旧 kazami-k 小説の杜から越して来ました

そして、池上線22

西崎とも代からの電話は、いつも唐突で、何かと騒動モノだ。

それもようやく慣れた頃に独立をし、彼女との縁もついに終わりだな。

ふと脳裏をかすった時に、今回の思いもよらぬ初恋さがしの仕事。

独立し二年目、ようやく出版社運営に慣れたとはいえ、

何かと小さいトラブル発生。印刷所に通い詰める日々が続き、

印刷所の社長と打ち合わせの最中だった。

「あのさあ、確認なんだけど」

「すまない、あとから掛け直すから」

「あ、ゴメン。けど5秒で終わるから」

ちらりと社長を振り返ると、工程表を眺めたまま肩を落としていた。

「じゃ、何?」

「すでにCDになってたんちゃう?」

「はぁ!?」

「ほら、こないだ届いたつづきのメール、池上線の。レコードて書いてたでしょ」

「あぁ、あれ。。。。」

社長を振り返ると、眼があった。

どうぞどうぞと、携帯のつづきと、言わんばかりに手を振ってくれた。

すんませんと、頭を下げ携帯を持ち変えた。

「いや、間違いなくレコードだったと」

「間違いない?」

「えぇ。」

そんなコトどうでも。。。と思いながらも、

いかにも彼女らしいコダワリだとあきらめた。

「それと、もうひとつ訊いてよい?」

「今、打ち合わせ中なので。。。」

社長は工程表と睨みっこしながら、少しイラついた表情を見せた。

「あのさぁ、ミドリに馬渕さんから電話あったみたいやけど、そっちも行ってない?」

「えっ。いやこっちには何も・・・」

「ふーん。なら良いの。じゃあ」

それだけ云うや、一方的に携帯が切れた。

5秒どころか、なんやかんや5分は経過していた。

「ちょっと、トイレ行って来ます」

少しイラついた表情で社長は席を外した。

すみませんと、頭を下げ携帯を見つめた。

馬渕探偵から電話。。。何らかの手がかりが見つかったのだろうか。

印刷所、会議室の壁のカレンダーを眺めた。

そう云えば、依頼してから、そろそろ2週間。

約束の中間報告の期限なんだろうな。

カレンダーを眺め、日付から視線をずらせた時だった。

思わず、あッと声を上げた。

彼女との一番の思い出場所。。。

まぎれもなく

代々木公園の風景がそこにあった。

代々木公園

つづく

今更ながら、言うまでもありませんが、当シリーズはフィクションです。 従いまして、地名、名前 等はすべて架空のものです。万が一 同姓同名同社の方が居られましても、なんら関わりは御座いません。