小説の杜

旧 kazami-k 小説の杜から越して来ました

そして、池上線28

「これて、逆も真なりですよね」

「ほーう。例えば?」

「どえらい時を過ぎたなら、やがては幸福が。。。て」

きっぱり言い切るや、涙で光った瞳で私を見つめた。

あ。この瞳。

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西崎とも代の代理。。。あ、いや馬渕探偵事務所、所長の代理でやってきた森島碧。

こちらの挨拶を途中で遮り、部屋に上がりこむなりズカズカと窓側へ。

え!?

所詮、彼女もただの現代っ子か。ま、仕方ないか・・・・・

が、それは

あの祖母に、一刻も早く真正面から見据える東京タワーを見せてやりたくての衝動。

さらに・・・・

祖母の写真を挟み込んでいた単行本(ミモザの祈り)

【じゃが、順調なときほど、どえらい事が起こる】

退職日ぎりぎりに決定させた私のコピー案。今や版元こそ違えど、我が子も同然な愛着本。

大事そうに抱えてくれ、なんと帯のキャッチコピーが決めてとなって買ったという。。。

「逆も真なりですよね。。。」

単なる偶然なのだろうが、彼女との運命を自覚せずには居られない瞬間でもあった。

潤んだ瞳で私を見つめ返した森島碧。

その瞳もまた、高野しおりの面影と重なりあい。。。。

ドギマギする俺を試すべく、逸らそうとせず、じっと見つめ続ける森島。

え・・・・

たしか森島は、今年二十歳。いつもはラフな格好なのに、やけに大人びたスーツを着込んでいる。

だがひとり息子と同世代、いわば子供も同然の子娘じゃないか。

さっきからなに意識してるんだ俺。

森島からの視線を振り払うように

「あ、冷たいものでも飲む?」

ソファーにどうぞと、目をやった。

すると

「あ、お構いもしませんで・・・・」

!?

「は、はは。それ言うなら、どうぞお構いなく・・・」

「うわー。そ、そうですよね。めちゃ恥ずかしい。」

真っ赤に顔を染めながらソファーに座った。

なんだまだ子供じゃないか。。。なぜだか、ふっと心が軽くなった気がした。

「では、馬渕さんからの」

伝言ですと、封筒をテーブルに置いた。

「え、けっこう分厚いですね」

たんなる中間報告だとばかり思っており、分厚い封筒は少し意外だった。

どうもと、手にすると

「じゃあ私はこれで」

と、いきなり起ち上がろうとした。

え!もう?

(ナニ期待してたんだ)

「あ、あのぅ。」

「は?」

「あ、いえ。ほかに馬渕さんからの伝言とかコトづてとかは?」

(伝言もコトづて、同じ意味、ナニ焦ってる)

すると起ち上りの腰を落としながら

「いえ何も。ただこれをお渡しするように。とのことだったものですから」

確かに。。。

一応は、ぎっしり詰まったであろう個人情報。元事務所の職員とは言え今や第三者

封筒の中身について、あれこれ知り得るコトも、権利もない。

そりゃあそうだわな。封筒を持ったまま、黙っていると

「ただ。。。。」

「えぇ」

「先生。。」

「西崎?」

「はい、西崎先生。一刻も早く中身を知りたくて、うずうずしてました」

言ったあと、森島は何かを思い出したのか満面の笑顔を向けた。

だろうな。

そもそも今回の初恋捜しは、西崎の案件というか差し金。

それが無ければ、探偵など・・・思いも寄らなかった筈。

「じつは玄関の外で待機してたりして?」

すると

「え。なぜわかるのですか」

森島は目を丸くした。

「ええ!!ほ、本当ですか」

すると

「あはは、んなワケないじゃないですか」

「あー!まさか、大人をからかうか」

怒りのフリをしながらも、ナゼか心地いい森島との会話に愉しんでいる自分が居た。

一方で、封筒の中身。

一刻も早く

その中身を確かめたい気持ちも、沸々と湧き上がるのだった。

ふいに

「え。駅は芝公園ですか。うわーめっちゃ近いんでしょ。東京タワー」

たしか初対面の日、彼女が発した言葉が走った。

夜のライトアップもそれはそれは見事なもの・・・・

彼女らとの見物もオツなものに違いない。

「西崎、こっち来れないかなぁ。一緒に封筒を開けて見ましょうよ」 「え!」 「あ、いえね。せっかくだから都合ついたの話だけどこっち呼んで。。。。」 「ほんまですか」 満面の顔で覗き込んだ。 「もちろん」

「うわーそれ。最高」

はしゃぐように言うや、森島は携帯を取り出した。

つづく

今更ながら、言うまでもありませんが、当シリーズはフィクションです。

従いまして、地名、名前 等はすべて架空のものです。万が一

同姓同名同社の方が居られましても、なんら関わりは御座いません。