小説の杜

旧 kazami-k 小説の杜から越して来ました

そして、池上線30

森島の携帯が振動した。

あ、先生からです。

「今、芝公園駅改札出たとこらしいです」

「な、なんとまぁ。。。。」

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「ごめん、来ちゃった」

「やあ・・・ま、とりあえず中へ」

「お疲れさまです、先生」

「暑っ。汗かいたわ、ミドリこれ」

どうやら駆け足だったのか、夏のような汗を光らせている。

西崎は、脱いだジャケットを森島に渡すと、勝手知った私の仕事部屋。

すたすた進むや、どっこらしょと、ソファーに腰掛けた。

ハンカチをぱさぱさと扇ぎながら

「冷たいのなんかある?」と振り返った。

「あ、はい。。。。ウーロン茶など」

(あ、森島に出すの忘れてた。。。)

               ※

あらためて、真向かいの西崎を眺め、ぷっと笑ってしまった。

「何よ」

「あ、いや失礼」

すっぴん顔は、まぁ良しとして問題は彼女の格好だ。

一応ジャケットを羽織って来てたものの、中身と云えば、あのよれよれジャージ。

そのくせ、さっき脱いだのは、たしか黒のハイヒール・・・・

「よくもまぁ。その格好で。。。」

「やっぱこれ変?」

「あ、いやまぁ。。。別にぃ」

「何が別にぃよ、しっかしまぁ。居ても立っても居られない。て、こう云うことね、

書きかけの原稿、おっぽり出し、気ぃついたら駅に向かってたわ」

「それはそれは。。。」

そこまで気になるかぁ。彼女の好奇心の強さは、一種の感動ものだ。

「で、それ」

ひと息ついた西崎の視線が、テーブルの封筒を指した。

ふと見ると、森島の目も封筒に集中している。

何やら澄み切った表情で、妙な感動を覚える。

「じゃあオープンしますか」

わざと軽薄っぽい声を発し、ぐいっとふたりの前に差し出す。

ふたりの固唾を飲む音が聞こえる。

「ほんまにええの?」

「もちろん」

強がって見せたのは、たんなる中間報告だろうの軽い気持ちからだった。

開けると7通ほどの住民票の写しが入っていた。

厚みの正体はこれか・・・・

だが、住所や氏名欄すら、所どころ、黒塗りで消されてある。

「いきなり住民票て、もう探しあてたんとちゃう?」

西崎が身を乗り出した。

「まさか。。。」

まさかとは思いながら、なぜか急にドキドキし始めた。

中身を全部取り出すと、住民票の束に、1枚の報告書が挟まれてあった。

だが

<中間報告>のスタンプが見えた。

「なんやまだ中間報告やて」

ウーロン茶を一口呑み、元気よく読み始めた。

『えー

・・・・・手始めに、大学職員名簿をとっかかりに調査を始めました。。。。

。。。。。。。。。。。。。。。』

だが途中、 徐々に声が小さくなり

しまいにはとうとう黙り込み、眼だけで報告書を追うことになった。

文面の最後は、

。。。。ですから、別添の写しNo.7。

旧姓吉岡しおり氏、実家と思われる住所に、心当たりがある場合には、至急のご連絡をお待ち致します。

と締められていた。

住民票の写しには、1から7までの番号が振られてあった。

No1の東京都大田区から始まり、都内を2、3転々としたあと、他県へ。

そして最後のNo.7は

京都府京丹後市丹後町竹野で終わってあった。

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(竹野と書いて”たかの”て読むんよ、知らないでしょ)

何かの拍子に、高野さんの口から出た言葉を想い出した。 おそらく本人に間違いないのだろう。

しかしまぁ、こんなにも。。。 住民票の束を眺めた。

あれから、こんなにも転々とするほど、苦労を重ねたと云うのか。 一体、何があったのだろう。

そして。。。

そして今は実家だと云うのか。

話で聞いただけの丹後半島を思い浮かべようとした。

 

だがしかし、映像としてはすぐには、浮かんでこない。

何しろ30年も前、ちらりと聞いただけの話。

「どうしたん。急に黙って」 西崎の言葉にはッと顔を上げる。 「え、あ。うん」 心配顔で見つめる森島と目が合った。

直ぐには答えられず、No.7の住民票を見せぽつりと言った。

「今、ここらしい。多分彼女の実家。丹後半島。京都の。。。」

 

つづく

今更ながら、言うまでもありませんが、当シリーズはフィクションです。

従いまして、地名、名前 等はすべて架空のものです。万が一

同姓同名同社の方が居られましても、なんら関わりは御座いません。