小説の杜

旧 kazami-k 小説の杜から越して来ました

そして、池上線6

パサっ。。 書類の束でも滑り落ちたかの音ではっと目覚める。 視線が捉えたのは、自宅の寝室でなく、雑然とした仕事場の光景に

しばし呆然となる。 この状況は・・・・ あ、昨夜・・・ 下読み仕事のため、やむなくオフィスに舞い戻り。。。

いつのまにか原稿用紙の束を抱え込んだまま、眠ってしまっていた。

よっこらしょ。床に落ちた原稿を拾い上げる。

 

それにしても、どれもこれも。。。

 

久しぶりの下読みだったが、ここまでレベルが落ちているとは。。。 誤字・・いや、ワープロ誤変換のオンパレード。 まだそう云ったミスは許せても、既視感。。。 どこかで読んだり、見た感の多さ、これには辟易となった。 映画やドラマなどの模倣は未だしも、文芸作品の模倣。 出版界に身を置く自分としては、此れだけはどうしても許せない世界だった。

 

(まぁ、おかげで段ボールの山が、思ったより早く片付いた) 数ページと読み進まないうちに、ボツの判断だった。 だが。。。 この段ボール。。自分の担当部分が、たまたまの駄作揃いなら、

まだ救いもある。 もし全体のレベルがここまで落ちているなら、大問題だと思う。 出版不況は今後ますます深刻になるだろう。

 

よっこらしょ。 身を乗り出して、段ボールの底を見ると最後のひとつになっていた。

どうせこれも。。。と寝転んだまま、読み進める。 だが、数ページ目で え、これは。。と、思わず起き上がる。 姿勢を正し、冒頭部分から読み直し始めた。

文芸新春編集部、三好菜緒子は約束の9時ちょうどにやってきた。 やってくるなり 「うわー驚き。ここらの桜、すっかり散ってしまってますね」 と云った。 「え、まさか?」 すると。 「あーははは、部長。1日遅れの、エイプリルフール。。。す、すんません」 ちょこんとお辞儀した。 「あ、コラッ」 なんだエイプリルフール。。。あ!? まさか、昨日。。。西崎らとのアレも? 「え、部長。。。いや社長、どうかされました?」 「あ、いやなんでもない。で、コーヒー飲んで行く?」 玄関先で立ったままの三好に、ソファーを進めた。 「すみません新幹線の時間が。今から大阪なんです」 ! 「あ、寺島さん?」 「えぇ新作の打ち合わせに」 「じゃあくれぐれも、宜しく」 「了解です。で、早速。。。下読みの。」 「10作品とのことでしたが、自分として、どうしてもこの83番しか。。。」 言いながら 一つの束を差し出した。 我々には作者名は伏せ、番号しか知らされていない。

「恐れ入ります。」 三好は受け取るや、「あ、やはり」と口にし 「やっぱモリシマミドリ。。。」と続けた。

「え!?」

 

 

 

つづく

今更ながら、言うまでもありませんが、当シリーズはフィクションです。 従いまして、地名、名前 等はすべて架空のものです。万が一 同姓同名同社の方が居られましても、なんら関わりは御座いません。