パサっ。。 書類の束でも滑り落ちたかの音ではっと目覚める。 視線が捉えたのは、自宅の寝室でなく、雑然とした仕事場の光景に
しばし呆然となる。 この状況は・・・・ あ、昨夜・・・ 下読み仕事のため、やむなくオフィスに舞い戻り。。。
いつのまにか原稿用紙の束を抱え込んだまま、眠ってしまっていた。
よっこらしょ。床に落ちた原稿を拾い上げる。
それにしても、どれもこれも。。。
久しぶりの下読みだったが、ここまでレベルが落ちているとは。。。 誤字・・いや、ワープロ誤変換のオンパレード。 まだそう云ったミスは許せても、既視感。。。 どこかで読んだり、見た感の多さ、これには辟易となった。 映画やドラマなどの模倣は未だしも、文芸作品の模倣。 出版界に身を置く自分としては、此れだけはどうしても許せない世界だった。
(まぁ、おかげで段ボールの山が、思ったより早く片付いた) 数ページと読み進まないうちに、ボツの判断だった。 だが。。。 この段ボール。。自分の担当部分が、たまたまの駄作揃いなら、
まだ救いもある。 もし全体のレベルがここまで落ちているなら、大問題だと思う。 出版不況は今後ますます深刻になるだろう。
よっこらしょ。 身を乗り出して、段ボールの底を見ると最後のひとつになっていた。
どうせこれも。。。と寝転んだまま、読み進める。 だが、数ページ目で え、これは。。と、思わず起き上がる。 姿勢を正し、冒頭部分から読み直し始めた。
※
文芸新春編集部、三好菜緒子は約束の9時ちょうどにやってきた。 やってくるなり 「うわー驚き。ここらの桜、すっかり散ってしまってますね」 と云った。 「え、まさか?」 すると。 「あーははは、部長。1日遅れの、エイプリルフール。。。す、すんません」 ちょこんとお辞儀した。 「あ、コラッ」 なんだエイプリルフール。。。あ!? まさか、昨日。。。西崎らとのアレも? 「え、部長。。。いや社長、どうかされました?」 「あ、いやなんでもない。で、コーヒー飲んで行く?」 玄関先で立ったままの三好に、ソファーを進めた。 「すみません新幹線の時間が。今から大阪なんです」 ! 「あ、寺島さん?」 「えぇ新作の打ち合わせに」 「じゃあくれぐれも、宜しく」 「了解です。で、早速。。。下読みの。」 「10作品とのことでしたが、自分として、どうしてもこの83番しか。。。」 言いながら 一つの束を差し出した。 我々には作者名は伏せ、番号しか知らされていない。
「恐れ入ります。」 三好は受け取るや、「あ、やはり」と口にし 「やっぱモリシマミドリ。。。」と続けた。
「え!?」
つづく
今更ながら、言うまでもありませんが、当シリーズはフィクションです。 従いまして、地名、名前 等はすべて架空のものです。万が一 同姓同名同社の方が居られましても、なんら関わりは御座いません。