小説の杜

旧 kazami-k 小説の杜から越して来ました

新連載「そして、池上線」

そして、池上線26

その日は、そこいらの女優にも引けを取らない完璧メークだった。 なぜかその顔が、より寂しく、哀しげにも感じられた。 「佐伯くん」 「は、はい」 「私、キミより一回りも歳上。結婚5年目なの」 「は、はあ!?」 ――――――――――――――――――――――――――――――― 残暑の…

そして、池上線25

高野さんは、眩しそうに目を細め、車窓を眺めていた。 独り言のような喋り方だった。 だから思わず 「良いんですか」 確かめるように訊いた。 高野さんは車窓を眺めたまま、少しの沈黙があった。 「弁当でも作ろうか」 小鳥のさえずりに聴こえた気がした。 ―…

そして、池上線24

そのあとしばらくは写真談義に花が咲いていたが、急に社長は立ち上がった。 内線電話を呼び出すや 「あ坂井君、さっきのは取り消し。佐伯社長んとこ優先。。。 うんそう、風の系譜社さん。いい?必ずだよ」 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 「…

そして、池上線23

風景写真のカレンダー。もちろん珍しくも何ともなく、 むしろ写真のないカレンダーを探す方が苦労するだろう。 だが、代々木公園の写真となれば話はべつだ。 あるようで、無かった代々木公園のカレンダー。 社長はまだ戻って来そうにもない。おもむろに起ち…

そして、池上線22

西崎とも代からの電話は、いつも唐突で、何かと騒動モノだ。 それもようやく慣れた頃に独立をし、彼女との縁もついに終わりだな。 ふと脳裏をかすった時に、今回の思いもよらぬ初恋さがしの仕事。 独立し二年目、ようやく出版社運営に慣れたとはいえ、 何か…

そして、池上線21

『たまちぃ、たまち。』 少し間延びの、車掌の声を聞きながら、いつもの反対側、西口に向かおうと決めた。 当時、Mと共同暮らしの学生寮は山手線、田町駅の東側。 運河、埠頭がすぐ迫る倉庫街へと向かう場所にあり、 レコード店はおろか、当時コンビニの一軒…

「そして、池上線」連載20回記念!そして、池上線のあれやこれや

とある通勤の朝、IPODから流れる お気に入り『池上線』を聴きながら、 あ 。この歌を題材に、ひとつ物語りが書けるのでは? と、ひらめいたのだった。 だがナァ とも思う。 あまりにも 直球勝負の題材なのだ。 歌の世界で、すでに物語りとして完結してし…

そして、池上線20

「え?トッキュウ、イケガミセン・・・」 高野さんが、じゃあ五反田まで一緒だね、と言い そのあとの言葉が聞き取れず聞き直したのだった。 「ちがう、東急の池上線」 今、思い出せばなにか可笑しい。高野さんはムキになって説明した。 「聴いたことない?歌…

そして、池上線19

「バスケ、入部の初日で辞めた。んで伝説的な笑い者に」 「あー。思い出した。それ。片思いだった子に根性なして笑われ、バカにされたとか。 まさかそれ大学まで引っ張ってたん?」 「うん。まあ」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ そう、その頃の私…

そして、池上線18

ドキドキしながら、受付へと向かった。 頭の中では、なんと切り出すべきかあれこれ考え、やはり引き返そう とか、あ、いやいや、やはり返却期限のことも気がかりだ。と 自分を奮え立たせたりした。 だが え? 受付には高野さんの姿はなく、時おり見かける職…

そして、池上線17

(あら。今日は遅かったですね。授業の居残り?) 低いトーンの、けれど可愛い唇から発せられた声が 耳から離れない。 誰に対しても笑顔を見せるヒトだけれど、いつもは無口で 人に対して、気安く声をかけるタイプの人ではない。 いや、なかったと思う。そう…

そして、池上線16

「あら、今日は遅かったですね。授業の居残り?」 受付を通り過ぎる時だった。いきなり彼女が声をかけてきた。 大学構内にある図書館に通い始め、おおよそ2週間。 彼女とは、すっかり顔なじみになったとはいえ、 最初の事務的に交わした会話以外、まだなか…

そして、池上線15

「その人と、当時どんな気持ちでのお付き合いだったのかとか、 別れのきっかけや、その時の気持ちとか、もし。。。 もし再会できたとしたら、どう言う心の変化があるとか、 洗いざらい正直に報告を、お願いしたいの」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・…

そして、池上線14

「で、どうやったん?あっちの件」 「は?」 「ほら、思い出捜し。。。」 「あぁ、そっちね。。。。」 探偵事務所の所長らしからぬ、ひょうきんな風貌が浮かんだ。 「まずここに相手さんのお名前を書いていただけますか」 渡されたグリーンの用紙には名前と…

そして、池上線13

「おそらくあの子。。。」 「あはい」 「涙をずっと我慢するだけの、悲惨な人生やったと思うの」 訥々と、そして涙を混じえながら西崎は語り始めたのだった。 横浜で生まれ、育った森島碧だが、幼くして両親は離婚。 三浦半島の小さな漁村、実家に碧を預けた…

そして、池上線12

その日の夕方。 西崎とも代がいきなりやってきたのは、 宅配便の集荷時間を気にしながら、 荷造り・発送仕事をしている時だった。 「あ。」 「何が、あっよ。ちょっとイイ?」 「あ、どうぞどうぞ」 西崎がいきなりやってきた理由。勿論わかっていた。 あれ…

そして、池上線11

何かを秘めたような、その瞳が かッと見開きこちらを見つめていたが みるみる泪が溢れ出し、しまいには声を上げ彼女は泣き出してしまった。 「あ、え。。。。」 どうしたの急に、大丈夫?と、声をかけたが 俯いたまま、かぶりを振るだけだった。 それ以上言…

そして、池上線10

その居酒屋は駅の反対側にある。 だが駅の裏側に出たとき、店の看板の明りは消えていた。 「ん?」 おまけにガラス扉には、何やら張り紙がしてある。 「え、定休日?」 小走りで歩み寄りながら、森島碧を振り返る。 「いえ。。。そんな筈は。。。」 店の前ま…

そして、池上線9

「あ、このチラシ入りの?」 カバンから取り出してみせた。 「えぇ。それを西崎先生が受け取って。。。」 「なんとまあ・・・・」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 少し頭が混乱してきた。 「じゃあ君、もともとは探偵事務所のひと?」 森島碧…

そして、池上線8

ブイ~ン。 西崎とも代からの、携帯のマナーモードが震えたのは 雪が谷大塚駅に到着と同時だった。 「ごめん、急用で遅れるの、とりあえず碧をそっち行かせたから」 「え」 森島碧・・・ 「じゃ、終わり次第すぐ駆けつけるから」 「あ、もしもし。。。」 ち…

そして、池上線7

文芸新春社、三好が口にした「やっぱモリシマミドリ。。。」 の言葉に、思わず 「もしや西崎事務所の新人?」と口に出た。 三好は 「え。部長、ご存じなのですか」と訊いてきた。 「ま、まあ。。。立ち話も何だから。。」 部屋に入るよう勧めたが、三好は時…

そして、池上線6

パサっ。。 書類の束でも滑り落ちたかの音ではっと目覚める。 視線が捉えたのは、自宅の寝室でなく、雑然とした仕事場の光景に しばし呆然となる。 この状況は・・・・ あ、昨夜・・・ 下読み仕事のため、やむなくオフィスに舞い戻り。。。 いつのまにか原稿…

そして、池上線5

午後11時40分。。。 ライトアップの消灯まで、まだ余裕が。。。 改札を出た時、時計の針を確認するや、それまでの急ぎ足をやめた。 久しぶりの酒の席だった。。。 40代では少々の無理も効いたが、50を超えた今とあっては、 少々こたえるものがある。…

そして、池上線4

「じゃあお願い。さっそく依頼に行って欲しいの。佐伯社長の 想い出探し。。。。」 「はあ!?」 「はあ。。。それはないでしょ」 少しトゲのある西崎の言葉だったが、眼は笑っている。 「え、まぁ。ですが・・・・・」 いきなり初恋の相手捜しと云われても…

そして、池上線3

西崎はチラシを受け取るや、「みどりも座ってなさい」と少しからだをずらし、 ソファーを空けた。 「え。。」と、みどりと呼ばれた新人は、一瞬、躊躇していたが 「失礼します」と西崎の横に座った。 視線が合うとピョコンと頭を下げた。 名刺を差し出し「あ…

そして、池上線2

西崎とも代の自宅兼仕事場は、雪が谷大塚駅の改札を出て東方向。駅前は賑やかな商業ビルが立ち並ぶも、 ひとつ通りを行けば、まずまずの静かな住宅街にあった。どの邸宅も植込みを充実させ、季節の花々を溢れんばかりに咲かせている。 そして、少し先には、…

そして、池上線1

お手伝い致します あなたの想い出探し。 例えば・・・・初恋の人に 逢ってみたいと思いませんか。 忙しいあなたに代わって、想い出探しの お手伝い。。。 秘密厳守 プチ探偵事務所 大田区南雪谷1ー※※ー※ TEL03 ※※※※ー※※※※ ・・・・・・・・・・・・・…